ビリンバウの紹介

導入 乾いた大地でも生息することができるという強味から、アフリカを筆頭に、瓢箪を利用した楽器が沢山存在します。とりわけ、共鳴器としての瓢箪は、その軽さ、加工のし易さから使用されることが多いのですが、それら数あるひょうたん楽器のうちの1つ、ビリンバウ(写真1)を紹介させて頂きます。

カポエイラ  ビリンバウは、ブラジルの格闘技、カポエイラにおいて、アゴゴ、アタバキ、パンデイロと共に使用される主要楽器の一つで、ブラジルを象徴する楽器として、サンバ楽器以外で唯一認識されているものと言えるかもしれません。


写真1

 カポエイラは、ブラジル北東部で特に盛んな格闘技の一つで、先述の楽器で演奏される音楽に合わせて行われます。新旧合わせて多くの人種が、混血・混在しあうブラジルですが、そのアフリカ系ルーツは、バントゥー民族(現アンゴラ・コンゴ地域)とジェジェ・ナゴー民族(現ナイジェリア・ベニン地域)の2つが主だと言われています。カポエイラは、そのうちのバントゥー民族系のディアスポラ文化の代表だと言われており、現アンゴラ周辺出身の奴隷たちが隠れて行っていた格闘技を、奴隷主への反乱に備えた訓練であると思われるのを避ける為に、音楽に合わせ、踊りのように見せかけたことが始まりである、というのが通説となっています。しかし。各奴隷主は、奴隷達の反乱の企てを恐れて、あえて、言語の異なる民族グループ出身者同士を奴隷として購入した、ということから考えると、むしろ、様々なアフリカの民族グループのダンスが混ざったものと考える方が自然だと言えるかも知れません。実際に、アンゴラには、カポエイラらしきものは存在しないという研究者もいます。

ビリンバウ ビリンバウは、楽弓(Musical Bow)の一種に属し、その中でも、特に原始的な構造を持つ楽器の一つです。(写真2)楽器は、弓部分と共鳴器部分からなり、それにカシシという副楽器を合わせて演奏することもあります。弓部分は木で、通常最も使用するのはビリーバですが、他にマッサランドゥーバ、カンディア、タイポカ、カンガルー、パウ・ダルコ(いずれも日本語訳なし)などを使用することもあります。ブラジル以外の国で作られる場合は、代用に、竹を使用することが頻繁にありますが、音が弱冠細く感じられる程度で、逆に繊細な音を発します。日本で手に入る、ブラジルからの輸入品は、ビリーバの他に、マッサランドゥーバ、タイポカなどが多いようです。共鳴器は瓢箪で、その大きさの違いで、音の高低を選ぶ事が出来ます。

 ビリンバウの丈は、個人の背丈によって長短がでますが、弦を張って弓状にした時に、自分の両腕を広げた幅くらいになるように切ります。弦を張り、瓢箪を加工した共鳴器をつけ、弓部分と同じ材料で作った棒(バケタ)で叩いて音を出します。(写真3)左手で石(ペドラ)を弦につけている時の石の上下で2音(共鳴器を胸でふさいで出す音)+2音(共鳴器を胸から離して出す音)、石をつけていない時の1音(共鳴器を胸でふさいで出す音)+1音(共鳴器を胸から離して出す音)、そして共鳴器を叩く1音の、計7音を組み合わせて、基本の11のリズムパターンを奏でます。


写真2


写真3

楽弓  楽弓は、ビリンバウの形からも想像できるとおり、狩猟のための弓を弾くことを、その始まりとしています。今から約2万年前の中石器時代に、狩猟のための弓を発明したことから、初めは、狩猟の成功の祈りなど、呪術目的に鳴らし、次第に踊りなどの折に演奏する楽器としても使われるようになりました。呪術目的としての楽弓は、今でも、ケニアの呪医や、日本の梓巫女などに見ることができます。  楽弓は、弓の日常性から、中国大陸と西アジアを除き、ほとんど全世界に渡って存在することが確認されています。楽弓の響をより大きくするための共鳴器は、各地により異なり、例えば、ナミビアのホッテントット族では食器を逆さにし、その上に弓を置き、音を拡張させますし、マレーシアのサカイ族は瓜を、モルッカ諸島ではココナッツを共鳴器とします。又、南アフリカのブッシュマンや台湾の高砂族などは、自身の口を開き、唇の端に弓の下部をあて、口腔を共鳴器に見立てて音を拡張させます。共鳴器を塞いだり、開いたりすることで、微妙に音階を変化させたり、ボルネオ島のように、弦の中央を糸で縛って弦を二分することにより、二音階を奏でるようになった、最初の楽器です。これに音数を増やすために、弦を二本三本と足していき、現在のハープやリュート、ツィター、コーラといった楽器となりました。
共鳴器としての瓢箪  共鳴器には様々な材料が使われますが、共鳴器としての瓢箪の利点は、軽さとその加工のし易さにあります。ビリンバウのように立てた状態で演奏する楽弓では、瓜やココナッツでは重く、支えるためには大きな力が必要となり、そぐわないのです。一方難点は、一度加工し、瓢箪の口を開けてしまうと、割れやすくなってしまうことです。軽く落としてしまっただけで、ヒビが入ってしまうこともあります。  ブラジル北東部は、海岸沿いの一部を除いて、その多くが、セルタンと呼ばれる半砂漠地帯であり、瓢箪はそれらの地域で、希少な植物として、水貯め用のつぼや食器の代用品として日常的に使用されています。これらの地域では、瓢箪の種をまくと、放っておいても、半年もしないうちに実がなり、半砂漠気候のため、乾燥させることも容易なのです。


写真4

 先述したとおり、ビリンバウにおいて、共鳴器としての瓢箪には、音階を変化させるという重要な役割があります。瓢箪の大小によって、ビリンバウ自体の音の高低を変えられるのです。つまり、バケタと石で奏でる音の全体のオクターブを上げ下げするのです。写真4は、ビリンバウに使用する瓢箪です。左から、ビオラ高音-ビオラ低音-ビリンバウ(メジオ)高音-ビリンバウ(メジオ)低音-グンガ高音-グンガ低音-ベハ・ボイで、左から右、つまり瓢箪が大きくなるほど、オクターブが下がります。カポエイラでは、このうちのビオラ、ビリンバウ(メジオ)、グンガを各1本づつ、計3本を使用することが決まっています。そうすることにより、同じリズムを叩いていても、和音を奏でているように聞こえるのです。ベハ・ボイは、カポエイラで用いられる事はなく、パーカッションの1つとして、パーカッショ二スト達に使用されています。

詳しくは さらに詳しいことをお知りになりたい方は、下記の書籍を読まれることをお勧めします。
晶文社 「アフ リカ音楽」クワベナ・ンケティア著 瀧村あや子訳
音楽之友社出版 「楽器の歴史」 黒澤隆朝著

 

 


執筆:町村奈保子
編集:常見俊直


ひょうたん展覧会トップページに戻る